【1000文字小説】陽の目は見えず暗澹と【太陽・ひまわり】

 夏休みが始まりました。 太陽はひまわりを照らして、ひまわりを天を仰ぎます。
 僕はそれに水をやって、もっともっと大きくなれと願います。
 1年生の頃からの日課なのです。
 僕は6年生ですが、ずっとこの花やり当番を受け持っているのです。
 夏の公園に人気はありません。遠くでは陽炎が踊っています。
「どうせ枯れるのに」
 彼女が言いました。 
 彼女はいつも僕の水やりについてきてくれます。
「どうせ枯れちゃうけど、できるだけ綺麗にしたいでしょ」
 僕の答えを聞いて、彼女は満足そうでした。
 彼女は持っているポーチから、ピンク色のカッターナイフを取り出しました。
 彼女はひまわりの茎にそっと刃を充てがって、力を込めました。
 鋭利な切り口で、茎と花が別たれました。
 麦わら帽子を脱いで、彼女が頭にひまわりの花をのせます。
「どう? 似合うかしら?」
「とってもね」
 僕の間髪入れない返答に彼女もまんざらではないようです。
 なぜでしょうか。 僕はひまわりを大きくしたいのです。
 それでも彼女はまだ小さなひまわりばかりをナイフで切っては、頭に飾って楽しむのです。
 一度問いかけたことがありましたが、彼女は小さくため息をつくだけでした。
 大きくなったものに意味はないというのでしょうか。
 8月に入りました。夏休みも本番です。 僕の不手際でひまわりを枯らしてしまいました。
 彼女は枯れたひまわりを見ていうのです。
「私もいつかこうなるのね」
 彼女の声はどこまでも冷たくて僕は返事に困ります。 蝉が鳴き出しました。
 遠くで陽炎がゆらゆらと揺れています。 公園には、僕たち以外誰もいません。
 風のひとつもありません。
「何か言ってよ」
 彼女の催促にどうするか。僕は逡巡します。 幾らか考えましたが僕は言ってしまいました。
「そうだよ。いつかきみもそうなるんだ」
 彼女は蹲り、静かに泣きました。
 枯れたひまわりが首をもたげて僕たちを見下ろしています。
 僕は彼女の背をさすりますが、彼女は拒みました。 枯れたひまわりに触れました。
 花弁はくしゃくしゃに萎れて、鮮やかな黄色は燻んだ茶に変わり、ハリを失って首を垂れるのです。
「僕もいつか、こうなるんだ」
 彼女は顔を上げないまま。
「ダメよ」
 溶けるような声でいいました。

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