転移

 何か酷い悪夢にうなされて、きぬたは目を覚ました。
 瞼を開けると、天井が目に入る。大理石だろうか。石が敷き詰められたような天井が目に入った。
「夢……、どこだよ、ここ」
 上半身だけを起こして、床に座り込んだ態勢であたりを見渡す。12畳でも到底足りない空間。あるのは甲冑、剣、槍、弓など、武装できるものが壁に沿うように配置されていた。
 それは決して木造の一軒家とは違う。夢から覚めた先も夢の中。ごく稀に起こる明晰夢の類だろうかときぬたは勘ぐる。
 きぬたはただ口をぽかんと開けているばかりだ。彼の困惑を他所に、部屋の扉が勢いよく開いた。
 男が入って来る。
「どけ。邪魔だ」
 男が横になっていたきぬたの背を蹴りつけた。
 きぬたは床にべたりと両手を着く形で間一髪の受け身をとる。
「痛ってぇな! 何すんだよ!」
「転がってるお前が悪い」
 きぬたは体勢を整えて起き上がり、蹴った相手を見据える。
 白銀の甲冑を身につけた男もまた、きぬたを睨め付けた。
「顔面を床に埋めるつもりで蹴ったんだが、お前見込みがあるな」
「はぁ!?」
 きぬたはあまりの言われように腹の奥底からふつふつと怒りが頭に登ってくるのを感じる。
 拳を硬く握る。左足を軸に腰を捻って、利き腕の右腕に体重を乗せる。
「何様だよ! お前!」
 暴言と共に拳が放たれる。空を切って甲冑の男の顔面に拳が真っ直ぐに向かって行く。が、渾身の一撃はあっさりと片手で受け止められ、手首を捻られる。
「いっ!」
「手荒いな。まぁ、いい。お前も晴れて騎士の一人だ。それも、このエステフィア城の姫に仕える直属騎士になったのだ。姫に粗相の無いようにな。アルマ・エルデイン=キヌタ卿」

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