きぬたは自室の扉を思いきり閉めた。
急いで、テレビの電源を入れる。
立て続けに、家庭用ゲーム機の電源を入れて、コントローラを手に握りしめた。
数秒遅れて、ゲームのホーム画面がテレビに表示される。
右上には、インターネットへの接続状況を表すマークがチカチカと点滅したのちに、接続完了を意味する黒塗りへと切り替わった。
きぬたが最近力を入れているのは俗にPvPと言われているプレイヤー同士が戦い勝敗を競うゲームだった。
一対一の真剣勝負が売りとなっているゲームは、コア層から絶大な支持を受け、一般のゲーム好きな人へと波紋していった。
きぬたもこのゲームに魅了された一人だ。不登校になってから、きぬたの日課はこれ一本に絞られた。
その成果は1週間前から顕著に現れ世界ランクはメキメキ上がった。
スタイリッシュな動きで敵を翻弄する戦闘スタイルの男戦士がきぬたにとっての相棒だった。
きぬたは絶えず画面の向こう側の敵を圧倒する。無作為に選ばれた対戦相手に対して、容赦なく剣戟を繰り出す。
自分の武器といわんばかりのコントローラーの扱いもさることながら、秒速8回の高速ボタン連打、華麗なスティック捌き。日に日に磨きがかかって、VIPプレーヤーとして、ネットの世界では一目置かれているプレイヤーにまでなっていた。
しかし、今日はそれが叶わなかった。
相手プレイヤーからのカウンターに見舞われ、あっさりとKOされた。
0.03ポイント、世界ランクが下がる。その数字をみて、きぬたはコントローラをわきへ投げるように放った。
画面の向こう側にいる誰かに、鬱憤が募った。
ごつい鎧を纏い、大振りの大剣を持った騎士。
きぬたは敵プレイヤーの姿を睨めつけた。兜の隙間から除く細い瞳が、何かを責めているような気がして、先にきぬたが目を逸らした。
目を見ればわかる。

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