それは夢だよ。

 キヌタは困っていた。なかば強制的に連れてこられて、それは自身が望んだことだと目の前にいる姫、リーリンは宣ったのだ。
 彼が困惑するのも無理はないだろう。

「俺はそんなこと、別に望んでなんて……」
「いえ、望んでいなくても現にあなたはここにいる。それがこの世の常。起こるべくして起きた。成るべくして成ったのです」

 リーリンが矢継ぎ早に続ける。

「だから、あなたがここに来たのは、強く望んだからなんです」

 キヌタはリーリンの言葉を咀嚼するのに、いくらか頭を捻った。末に はぁ と間の抜けた声だけが漏れ出た。

「まだ、納得できないようですね」
「まぁ……そうですね」

 リーリンは人差し指を顎に押し当て思案にふける。

「さて、どうやって納得させましょうか」

 その仕草がどこかおかしかったのか、キヌタはふっと表情の筋が緩んだ。

「あ、いま天然だなとか思いましたね」
「いえ、そんな!」

 キヌタは大げさに掌を挙げて顔の前で振った。

「心外です……。何はともあれ、納得してもらえないのなら夢の中のお話と思ってください。これはあなたの夢です」

 ああ、やっぱり夢か。
 ようやく合点がいったようだった。

「言いましたよね。この世界に門が現れるのは必ず向こうが夜のとき。すなわち、この世界の昼です。夜になると自然にあちらに送還されるのです。どういった摂理が働いているかはわかりませんが。つまり、日常生活はしっかり送れますよ」

 キヌタは「俺、別に昼間も何かしてるわけじゃないですけど」と言いかけるがそんなことを言う必要はないと思い、黙り込んだ。

「私は明日も待っています」
「え」

 リーリンがほほ笑んだ。だけど、キヌタは感じ取った。
 その微笑みに強い意志が宿っていることを。

「それとこちらの世界の住人には、向こうの世界のお話は内緒でお願いします。同様に、向こうの世界のお方にも、こちらの世界のお話は秘密です。直に夜になるでしょう」

 夢の内容を内緒にしろだなんて、念を押しすぎじゃないか感じたがとキヌタは声には出さなかった。 
 それよりも先ほどの待っているという言葉の方が引っかかった。

 カランカランと鐘が鳴った。外を見ると日が傾いているのが見えた。
 そして、キヌタの意識は遠のいた。
 現実へと引き戻される。押し入れの中で見た夢では説明がつかないほどに鮮明な出来事だった。

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