なぜか転移先は異性の自室とかいうあるある。

 カランカランと遠くで鐘が鳴った。
 きぬたが目を開けるとそこには、リーリンの顔があった。
 どうやら仰向けになっているようで、リーリンはそれをのぞき込む形になっているらしい。
 顔の距離はやけに近い。
「ご機嫌麗しゅうキヌタ」
 リーリンの弾んだ声がキヌタの鼓膜をくすぐる。
「は、はい。とてもいい、です!」
 全身が硬直させたキヌタが情けない声を上げる。
「ヴァル! 起きましたよ!」
 体をよじって、扉の横にいる大男に笑顔で話しかけた。
「ええ。そのようですな」
 抑揚のない声で男が応える。
「ああ見えて、ヴァルも心配していたのですよ。どこか痛いところとかはないですか?」
「なんとも、ないです」
「そうですか。それはよかったです」
 リーリンが、佇まいを直して椅子に腰かけた。
 キヌタはあたりをみやる。昨日も通された広間とはまた違う場所。
 木材の家具、調度品が多いからか、どこか温かみがある。
 織機に、鍵盤楽器のようなもの、壁際に鎮座している棚には多くの書物が並んでいる。
 いくらかは平積みにされている。それがどこか生活感を感じさせていた。
「ここは姫の自室だ。その意味がわかるか新入り」
 ヴァールハルトの低い声が響いた。キヌタは合点がいくとともに頬はみるみる紅潮していく。
「まぁ、いい」
「堅いことは言わないで。ヴァル。私はキヌタがいてくれてとても頼もしいわ」
「左様で。ですが、近衛騎士選抜試験に受かっただけの新米をここに置くのは些か早計ではないかと」
「ヴァルはまるで口うるさいバトラーのようでいじわるだわ」
「彼女と一緒にされては困ります。あれは私の手にも余るお人でございます」
「あら。ヴァルにも怖いものがあるのね」
「もちろんでございます。特に女子供は怖いですな」
 リーリンが声を殺してくすくすと笑った。
「女子供はあなたの厳ついお顔を怖がっているわ」
「面のことは言わないでいただきたい」
 困り顔のヴァールハルトを見てキヌタは落ち着かなる。
 姫との接し方と自分とでは態度が違いすぎる。
 それがキヌタの心を逆撫でた。

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